dream | ナノ




act.028


生徒のヒソヒソ話がいつも以上に耳に煩いのは
どうやら目の前の3人が原因のようだった

「ああ、点が減っていると思ったら……そういう事だったの?」

ハグリットの所でドラゴンの子供が孵った

それをウィーズリー家の次兄、チャーリーのいるドラゴンの研究所まで送るという事で
彼の友人達がその受け取りにやってくる、そういう手筈になっていたのだ

その為、夜に寮を抜け出して出歩いているのがバレて
ハリー、ネビル、ハーマイオニーは1人50点―――合計して150点もの減点を喰らった

「ていうか、君あんまり寮の得点に興味ないの?皆僕らの事を避けてるのに」

「無い。だって毎日増えたり減ったり……忙しく動いてるのって好きじゃない」

ネビルはこちらの様子を伺うよう、覗き込むように話した

150点も失ったグリフィンドールは、最下位だ

それを知ったグリフィンドールの生徒は勿論のことだったが
スリザリンから寮杯を奪えるのを楽しみにしていたレイブンクローやハッフルパフの生徒も、ハリー達に冷たく当たった

私は、この先を知っている
特に態度を変えることもせず、何時も通り彼らと食事を囲んでいた

「のんびりだよな、本当。お爺様にそっくりだよ、まったく」

「スネイプとか、クィレルとか……ダンブルドア校長は、そのー……君に何か言ったりとかは?」

「何にも無いってさっきも言ったよ、ハリー」

ハリーは前日、怪しい言動のあったクィレルの事で私が何か知っているのではと
昨日今日と、一生懸命その説を語ってくれるのだ……疑うのは仕方ないけどね、どっちも怪しいもの

「ねぇ、大事なことを忘れていると思うんだけど」

ちょうど、フクロウの鳴き声がした―――朝の手紙配達の時間だ

ばさばさと羽音をさせる茶色のフクロウが、3羽
ハリー、ネビル、ハーマイオニーの目の前に、手紙を運んでやってきた

3人の顔色が、さっと青くなった

「試験も近いのに……頑張ってね」

”処罰は今夜11時に行います。玄関ホールでミスター・フィルチが待っています。 マクゴナガル教授”

そう書かれた手紙が、3人分、朝食の隣に並べられている
……今夜は、禁じられた森での処罰が行われる日

学年末の試験まであと一週間を切っているのに、夜の自由時間を削られるのは厳しい
ハーマイオニーは行儀など気にせず、教科書を読みながらクロワッサンを齧っていた


* * *


夜11時
そろそろ就寝時間という時刻に、玄関ホールには生徒の影があった

「ちょっと待って、なんで名前が此処に?」

「……ははは、スネイプ教授から罰則を頂いたの」

「まさか同じ罰則だなんて」

「うーん、丁度良かったんじゃない?」

ハリーとハーマイオニーが目を丸くしてこちらを見た
普段は目立たないように地味を貫いている私が減点と罰則なんて、考えてもいなかっただろう

「さ、おしゃべりはそこまでだ。付いて来い」

フィルチに続いて、生徒達は大人しく暗闇を進んでいった
小さな、なんとも頼りにならなさそうなランプを目印に

―――この罰則、どうしても同行したかった

私はセブルスにお願いして適当な理由で減点、罰則のコンボを頂く口実を作ってから
ハリー、ネビル、ハーマイオニー、それからドラゴンの件を密告していたドラコの罰則に同行することにした

もしかしたら……なんて期待、ゼロじゃなかったかもしれない

それでも私には、あの森に入りたいと思った
懐かしきアルバニアの森とよく似た、針葉樹の森へ……


「フィルチか?急いでくれ、俺はもう出発したい」

しばらく歩くとハグリッドの小屋の明かりと、それから聞き馴染みのある大きな声が聞こえた
窓からの明かりに照らされた大きなシルエットは、肩に矢筒を背負っている

「君達がこれから行くのは、森の中だ。もし全員無傷で戻ってきたら私の見込み違いだがね」

ネビルとドラコが、ぴたりと動きを止めてフィルチの方を見た

「森だって?そんな所に夜行けないよ……それこそ色んなのがいるんだろう、狼男だとか、そう聞いてるけど」

「そんな事は今更言っても仕方が無い、狼男の事は問題を起こす前に考えとくべきだったねぇ?」

ネビルはひぃと喉を詰まらせ、ハリーのローブをしっかりと握っていた
ハーマイオニーだって拳をぎゅっと握り締めて、森の奥をじっと見つめている

彼らはまだ11歳かそこらの子供だ、暗闇だって怖いに決まっている

「それじゃ、よーく聞いてくれ。なんせ俺達が今夜やろうとしている事は危険なんだ」

森へは行きたくない―――そう駄々を捏ねていたドラコとハグリッドが揉めていたが
これが罰則で、ホグワーツを辞めたいのならすぐ城へ戻れと叱った所で、ようやく話がついたようだった

「皆、軽はずみなことをしちゃいかん。しばらくは俺に着いて来てくれ」

ハグリッドを先頭にして、一行は森のはずれまでやって来た

ランプを高く掲げて、暗く生い茂った木々の奥へと足を伸ばす
細い曲がりくねった獣道を指差し、ハグリッドが立ち止まった

「あそこを見ろ。地面に光った物が見えるか?一角獣の血だ」

「ユニコーンの……?」

月明かりに照らされたシルバーブルーに煌く、その水溜りからは
生物から発せられる独特の血生臭さも残っており、それが鼻腔を擽った

「何者かに酷く傷付けられたユニコーンがこの森の中にいる……今週に入って2度目だ、水曜日に最初の死骸を見つけた。」

「そんな、かわいそう」

「そう、皆でかわいそうなヤツを見つけ出すんだ。助からないなら、苦しまないようにしてやらねばならん」

本日の罰則の内容が、ようやく明らかにされた
それを聞いたドラコは、再び怖気づいた声を上げた

「ユニコーンを襲ったヤツが、先に僕達を見つけたらどうするんだい?」

「俺やファングと一緒におれば、この森に棲むものは誰もお前達を傷付けはせん」

―――この森に棲むもの、はね

ハグリッドは石弓をしっかり
と持ち直すと、辺りを見回した
周囲の確認が済んでからは、一行を二つに分けてユニコーンを探す事となる

「では二組に分かれて別々の道を行こう、そこら中血だらけだ。」

「……僕はファングと一緒がいい」

「よかろう。断っとくが、そいつは臆病じゃよ」

唸るファングの牙を見たドラコは、真っ先にそう言ったが
ファングの性格を聞いた後は、一層身体を震え上がらせていた

「私、ドラコとネビルに着いていく」

「名前……?」

「ユニコーンは魔法使いより魔女の方が好き、でしょう?ハグリッド」

「確かに、よく勉強しとるな。じゃあそっちを頼む」

「うん、任せて」

「そんじゃハリーとハーマイオニーは俺と一緒に行こう。名前とドラコ、ネビルはファングと一緒に別の道だ」

ユニコーンを見つけたら緑色の光を
もし困った事が起きたら、赤い光を打ち上げる

全員が杖を出して、光を打ち上げる練習をしてから
各々が進む、暗闇に伸びる獣道へと足を進めていった

「さ、ドラコ?貴方に一番前をお願いするわ」

「なっ!なんで僕が!」

「私もネビルも、しがないグリフィンドールですもの……貴方だけが頼りよ」

「……ついて来い!」

一番後ろを取られても、彼はネビルにいたずらをするだけ

こんな暗闇で怖がらせたくもなかったし、無意味に森を刺激してもユニコーンは見つけられない
明け方までこんな森を彷徨うくらいなら、さっさと目当てのものを見つけたい

「うう、血の臭いだ」

「いくら綺麗でも、生き物だしね」

ネビルが片手で鼻を覆って、小さな声で呟いた

もう片手にはしっかりと杖が握られているが、私との距離はしっかりと詰められており
杖なんて振れないのでは、というくらいにぴったりとくっついて歩いていた

「血が、あちこちに……」

「相当酷い怪我みたい、かわいそう」

「お、おい!そんなにくっついて歩くと危な……うわぁ!?」

ドラコが後ろを向いた途端―――視界から消え、否、転んだ
その声に驚いたネビルは、杖を空へ向けて花火を打ち上げる

「わああああああっ!?」

ポン、と小気味良い音と共に、赤い花火が空を照らす
相当力んでいたのか、特大の花火は辺りを赤く染め上げた

「大丈夫?」

地べたに座り込んで、ぽかんとした表情のまま花火を見ているドラコへ手を差し出す
彼はその手を掴んで立ち上がると、鋭い視線をネビルへと向けた

「っもう!なんでそんな事で花火を上げるんだ!ロングボトム!」

「うう、だ、だって……!君が!」

「なんだ、僕のせいだって言うのか!?」

口喧嘩をする2人だったが、すぐに駆けつけたハグリッドに窘められた

ネビルは既に目を赤くしており、じわじわと瞳を潤ませていたのを見て
またその場で全員、新たに組み分けをするハメになった

「お前達2人がバカ騒ぎしてくれたおかげで、もう捕まるもんも捕まらんかもしれん」

溜息を吐いたハグリッドは、今度はネビルとハーマイオニーと一緒に
こちらにはネビルと入れ替えにハリーが参加する事となった


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